【事例紹介】

広島の住まいづくりマガジン「自遊建築」事例紹介テーマのある家:風流に暮らす

風流に暮らす/奥ゆかしき日本の風情が息づく、現代的な隠れ家。


夫婦の寝室。畳の部分がベッドがわり。使い勝手が良いよう設計されている。

天井が高く、広々とした洋室。どんな風に暮らすか、アイデア次第だ。

高低差のある敷地を最大限に生かしたプラン。

三段構えの日本的な屋根が、優雅さと奥行きを感じさせる。

この家の屋根は、一番奥に傾斜の高い屋根、その手前にやや傾斜の低い屋根、一番手前には緩やかな傾斜の屋根がある三段構えの構造になっている。現代の一般的な住宅には見られない構造だが、なぜか見ていて落ち着く。

「これは、昔からお寺で必ず使われている屋根の構造なんです。意識していなくても、日本人なら見慣れているはずの形で、安らぎや安心感を覚えると思いますよ」と、黒川氏。
この屋根の構造が、日本的な優雅さを感じさせるとともに、奥行きを感じさせてくれる。建物の広さは40坪でありながら、実際よりも広く見えるのはそのせいだろう。

そして、この屋根の高さは、家の内部の構造とも深く関係しているのだと、黒川氏は言う。
「屋根の高さというのは、天井の高さでもあります。天井の高さは、生活スタイルに関係します。どういうことかと言うと、西洋式の立って生活するスタイルでは、天井が高い方が開放感があって生活しやすい。逆に、日本の座って生活するスタイルでは、あまり天井が高すぎると落ち着かないですよね」。

つまり、この家では屋根の高さによって、西洋式の立って生活するスペースと日本的な座ってくつろぐスペースが、自然に棲み分けられているというわけだ。実際に入ってみると、一番手前にある緩やかな傾斜は和室の屋根であり、高い屋根の部分はリビングやキッチンといった、現在では立って生活する方が都合の良い生活スペースとなっている。実に見事な空間配分だ。
「優れたモノには”必然性“というのが必ずあります。何となくそうなった、という事は無いんですね。日本の伝統や文化には、そういった”必然性“がたくさんあります。私は、良い必然は大事にしたいですね」と、黒川氏。


等間隔に開いた小窓や、下の窓がポップな雰囲気。
明るいけれど、外からは見えないようになっている。

和室には、やはり障子を。
特徴のある丸窓が、障子に不思議な陰影を描き出す。

通りに面した和室からの風景。扇状の窓を開けると視野が大きく拓け、中庭の風景が現れる。 和室に続くウッドデッキが、部屋を広く感じさせる。 斜めにカットすることで変化が生まれるとともに、より奥行きが出た。


住む人の目線・動線を考えた、開放的な光と窓の空間演出。

浮き世のしがらみを寄せ付けないような風格のあるこの家の外観。しかし、風流とは、『世俗から離れて趣味の道に遊ぶこと』とあるように、内側も閉ざされた空間であっては、決して風流な暮らしとはいえない。黒川氏は、住む人の目線や動線を全て計算に入れ、部屋の配置や窓の位置、照明までデザインするという。

「暮らすことを考えたら、外からは閉じているが、内からは開いている方がいい。例えば、道ゆく人から家の中は見えないけれど、部屋の方から外を見ると、自宅の木々と向かい側のお宅の緑、そして空、といった具合に、見たいものだけが見える高さにしてあります。窓もそうです。外からは見えず、中からは美しい風景がたくさん見られるよう配置しました。もちろん、座った状態で見る窓なのか、立った状態で見る窓なのかも考えます。明かり取りの窓も、ただ部屋を明るくする目的だけでなく、窓から入る光が家の中をどう照らすかを計算します」と、黒川氏。
光が家をどう照らすか、とはどういう意味だろうか。

「この家には、床に近い位置につけた窓も多くあります。光を下から取り入れるのは、日本的なやり方なんです。日本の花瓶や壺、置物などは、下から光があたることでより美しく見えるようにできています。逆に西洋は、上から光があたる文化なんですね。だから、その空間に何を置くか、どんな使い方をするのかによって、窓の位置が、必然的に決まります」と、黒川氏。
そうした必然性に導かれて開かれた、外へのたくさんの扉。外の喧噪からは守られ、かつ、内から外へは開放的であるからこそ、のびのびと暮らせる生活空間となり得るのだ。