【事例紹介】

広島の住まいづくりマガジン「自遊建築」事例紹介テーマのある家:自然と暮らす

自然と暮らす/高低差140cmの上に住居を構えた、自然と溶け合う家。


緑に囲まれた山下邸。こちらは、段差の低い方である家の正面にあたる。外壁のからし色とウッド部分、そして自然の緑のコントラストが、とても綺麗。

山側から続く路地を下ると、山下邸はこんな風に見える。見る方角によって表情が変わるのが、この家の魅力の一つ。

リビングから続く和室と、玄関や階段へと続く廊下。和室は縁なしの畳や淡いピンクの襖が、明るい印象で、この家をさらに軽快に、広く見せている。

段差のある土地に家は建てられないと言われて。でも、どうしても削りたくなかったんですよね。

建築家と家を建てたのは、「できる」と言われたから。

「工務店から整地することを勧められた時に、すぐに諦めなくて良かったと思います。探せば道は開けるんですね」と山下夫妻。

ただそこに自然と存在するものを、ハンデと嘆くか、個性という豊かさと捉えるかは、受け取る人の裁量ひとつかも知れない。山下邸の一番の個性は、何と言っても高低差が140cmという土地に住居を建てたことである。
「工務店に話すと、段差を削って平地にしないと家は建てられないと断られてしまうんです。でも削りたくなかったんですよね」と、山下夫妻。
完成した山下邸の玄関脇には、ゆるやかな傾斜の路地があり、中庭へと続いている。手を入れられた植木が並ぶその後ろには、豊かな緑をたっぷりと蓄えた山の自然が目に鮮やかだ。中庭に向かって大きく開けられたリビングの窓の縁に腰掛け、この景色を眺めていると、山下夫妻が段差を削りたくなかった気持ちが、理由を聞かずとも分かる気がした。50代になり、残りの人生を楽しめる環境にしたいと家を建てることを決意し、何とか方法はないかと本屋で家づくりの本を探したご主人が見つけたのが、本誌の創刊号だった。巻末に連絡先があったので、素直に「段差のある土地に家は建てられますか?」と疑問を書いて送った。
すぐに返事がきた。「建てられます」と。「できる、という返事にビックリして、じゃぁ建ててもらえますか、とすぐにお願いしました」と、ご主人。

何事もメリット、デメリットが。何を優先するかが成功の鍵。

物事には両面性がある。ある程度の建築条件や画一的な基本デザインがある建て売り住宅や注文住宅なら、短期間でスピーディに建てられるといったメリットがある。反面、今回のようなイレギュラーな注文への対応は難しいだろう。一方、建築家と建てる場合、通常1年以上の期間がかかることが多く、しかもこういった案件に対応できる建築家が多いとは言えない。しかし、うまく出逢えれば希望の家づくりにグンと近づく。何かを選ぶ時、何を最優先に考えるかで選択の方向はおのずと見えてくる。山下夫妻は、建築家と家を建てる道を選んだ。
平成17年の1月に疑問を書いてファックスを送ったのが始まりで、どんな家にしたいかという聞き取り、建築プランの提案、細かな要望の追加と修正、竣工、と順調に進み、約1年後の平成17年12月末、山下邸は完成した。
山下夫妻の要望は、とにかくのびのび暮らせる家にしたいという一点のみ。「ここを建てる前は、中庭を挟んで向かい側にある私の実家で親と同居していたんですが、私たちの寝室は4畳半と狭く、台所もお風呂も狭かったんです。仕方ないんですけどね」と、ご主人。