Profile/kouzi kurokawa
黒川1級建築デザイン事務所代表、Life Design Club代表、職人倶楽部代表。常に施主の目線に立ちながら、建築にかかわる全てをコーディネートしていくという独自のスタンスを確立。丁寧な家づくりの姿勢が、自分らしい家を求める人々から圧倒的な支持を得る。

上)美しいアールの梁も、イメージだけでは完成しない。建築家の適切な指示と、それを実現してくれる職人たちとの信頼関係があってこそ。
下)住む人にとって心地よくなければ、いい家とは呼べない。だから施主とは、いろんな話をするという。
家をデザインするのではなく、暮らしをデザインする。
建築家とは、どんな存在なのだろう。その答えは、巷に氾濫する「建て売り住宅」と対極にあると考えれば分かりやすいと、建築家の黒川功嗣氏は言う。
「建て売り住宅は、多くの人にとって住みやすい条件を基準にした、いわば『規格サイズ』の家。建築家が創るのは、そこに住む人の暮らしやすさを考えた『自分サイズ』の家です。家をデザインするのではなく、暮らしをデザインするとも言えますね。他の建築家の方はどう考えるのか分かりませんが、私はそこに住む人がいなければ、建築プランを考えることはできません」。
自分サイズの家を創るという黒川氏の言葉に、思わずはっとする。私たちは、いつから『家を建てる』という意識を失い、『家を買う』という感覚を持つようになってしまったのか。
「昭和29年頃から”文化住宅“という考え方が流行しました。台所、食堂、応接室を家のプランの中にとり入れた和洋折衷の住宅のことですが、そこには戦後、焼け野原から復興するために、大量の家を限られた資材で効率的に建てる必要がありました。画一化された住宅モデルを持つことで、大工さんなど専門知識に長けた職人の不足も解消できます。それは日本の再生につながり、決して悪い事ではありません。しかし、その流れが、守るべき伝統や豊かな文化も消し去った側面もあるように思います」と、黒川氏。

たくさんの素材からベストな選択をする。選び抜かれたものは、飽きることなく愛されるだろう。
本来の”自然“とは何か。それを見失わないでいたい。
その一例として、自然素材に対する意識のあり方を黒川氏は問う。
「私の作品には、自然素材の家というイメージがあるようですが、私からすれば当たり前なんですね。日本の家はもともと木造が基本で、そこには長年の間に培われてきた必然性もあったわけです。それを無理に消す必要もない。だから私が家を建てるとき、自然素材は当たり前の事として考えます。ただ、自然を扱うには自然の法則を知らなければならないという事を忘れている人が多いのではないかと思います」。
長年受け継がれてきたはずの必然性や、自然を扱う法則とは何なのか。
「日本の、しかも広島の風土に一番合うのは檜と杉ですが、だからといって全て檜や杉にすればいいわけではなく、モノには適材適所があります。例えばパイン材はキズが付きやすいので床材には向かないが、壁や天井には適している。杉は木目が美しいけれど、床に使うとたわんでしまう。そうした性質を知って使う必要があります。一般の方がそうした知識を持たなくなったのは仕方ないですが、それを説明できなかったり、あるいは知らない建築業者が増えていることは残念でなりません。知っていれば、選択肢が広がります。
私は何も、自然素材でなければならないという主義ではなく、その場所の気候や役割、住む人の心身への影響、予算などに応じて、最も適する素材を使いたいだけなんです。それが、本来の”自然“ではないでしょうか」。

「設計は、自分の想いを図面に綴っていくこと。
小説家が一冊の本を書く事に似ています」と、黒川氏。
平面図では家は建たない。空間を図面に綴っていく。
そこに住む人をイメージし、最適な素材を選びながら建築プランを考える黒川氏は、1邸につき50枚近い図面を引くという。一般的なハウスメーカーの図面が10枚程度であることから考えれば、尋常ではない綿密さだ。
「もちろん、最初は平面図と立体模型、イメージ画などでクライアントに提案します。この時点で、私の頭の中ではもう出来上がっているのと同じですから、最初にクライアントと具体的なイメージを共有する事でその仕事はスムーズになります。
『もう一部屋欲しい』など、細かな変更はあるにしても、基本的な構想の部分で私とクライアントの間に隔たりがあると難しいですね。合致すれば、本格的な設計に入ります。基礎から全ての壁面、家具、使用する素材に至るまで書き込み、50枚どころかパースも入れると100枚近くになりますね。
オーダーメイドの家は構造も複雑ですから、細部までキチンと図面を引きます。図面があいまいだと、クライアントも職人も、それぞれに違う解釈をしてしまい結局トラブルの素になります。平面図だけでは家は建ちません。最初にイメージしたものを、空間のすみずみまで具体的に綴っていく。そうすることで、皆のイメージが寸分違うことなく重なり合い、『皆で一緒に創っていける』という基礎ができるんです」。
一緒に創っていく_この手応えを共有する事こそが、私たちが『家を建てる』という意識を取り戻す、最大にして唯一の方法なのかもしれない。
家づくりを思い切り楽しみ、味わいつくしたいなら、建築家とともに創る道を歩んでみてはどうだろうか。

